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『浮雲』20120901

「あなた、とても痩せたわね」
「美味いもの食はないせゐだよ」
「私も痩せたでせう?」
「さうでもない‥‥」
「だつて、抱いてみて違はない? 奥さんとどつちが太つてゐる?」

 富岡はまた手をのばして、盃の酒を唇のなかへかつとあけた。
 富岡は、お互ひの噴火はすでに終つてゐるのだと思つた。二人とも見誤つてゐるのだ。本質的に二人とも、この敗戦の底にずんずん沈みこんで、噴出する火を持たなくなつてしまつてゐる。只忘れてゐる。
「ねえ、加野さんには、私、可哀想な事をしたつて思つてゐるわ。あなたがあんまり、私を可愛がつてくれるから、私、加野さんをからかつてしまつたのよ。――でも、加野さんなら、私とよろこんで死んでくれる人ね。あの人は本当にうたがふつて気持ちのない人ですもの。‥‥戦争だつて、あの位、日本が勝つつて信じこんでた人もないでせう? いゝ人だつたわね。二人の伴奏者としては申し分ない人物よ」
「君はひどい女だね」
「さうかしら‥‥。でも、女つて、そんなところもあるンぢやない?」

 富岡はなるべく加野の事を思ひ出したくなかつた。時々、加野の事を言い出すゆき子の心理には、何時までも加野を伴奏者として、二人の昔の情熱の呼び水にしてゐる悪い好みがないとは言へない。富岡は疲れてしまつた。ゆき子は少しも疲れないで、壽司をつまんでゐる。色がはりした、黒いまぐろをつまんで、平気でお喋舌りしてゐる。没落しつこのない原始的な女の強さが、富岡には憎々しかつた。赤い蒲団から、洗つたやうな艶のいゝ顔を出してゐる女の顔が卑しく見えた。
「何を考へてゐるの?」
「何も考へてはゐない」
「奥さんの事でせう?」
「馬鹿!」
「えゝ、私は馬鹿よ。女は馬鹿が多いのよ。男はみんな偉いンでせう? 馬鹿に責任を持つなンて気の毒みたいだわ。未来の事なんか考へないで、かうして、眼のさきのあなたにすがりついてるなンて、馬鹿以外の何ものでもないわ。ね、さうでせう‥‥。はるばる戻つて来て、でも、逢へて、とても嬉しいのよ。それだけなのよ。――でも、私、海防で、あなたが奥さんと逢つてるところ考へて、とても厭だつたの‥‥。奥さんつて、どんな方? 美しい人なンでせうね。教養があつて、綺麗で‥‥」
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2012年01日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

エビススタウトクリーミートップ

ebisustoutcreamytop201208

推奨銘柄!!
これはギネス要らず(笑)。黒エビスともども、輸出して欲しいなぁ。
いい仕事してまんねんな。
2012年01日 日々のあれこれ こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120902

 ゆき子は眼の前に呆んやり、富岡の妻を描いてみた。申し分のない美人の楚々とした姿が眼の前に現はれて来る。富岡はゆき子のおしやべりを聞きながらうとうとしてゐた。
「君が帰るまでには、きちんと解決して、奥さんとも別れてしまつて、さつぱりして、君を迎へるつて言つたのは嘘ね。男つて嘘吐きよ。女を口の先でまるめて、自分の境界はちやんとしておくのね。私を、こんなところへ連れて来て、思ひ知らせるなンてひどいわ。日本へかへつたら、何も彼も昔の生活をきれいにして、君と二人で、日傭い人夫でもして生きようなンて言つて‥‥」

 ゆき子は涙をいつぱい溜めた眼を閉ぢて、富岡の肌をなでてゐた。腰骨がごつごつしてゐた。美味いものを食はないからと言つた男のざらついた肌が哀れだつた。ゆき子は自分の下腹に手をやり、すべすべしたなめらかな肌ざはりに神秘なものを感じてゐた。どうして、こんなに生きた女の肌はつるつるしてるのかと不思議だつた。国が敗けたつて、若い女の肌には変りはないものかしら‥‥。もう一度、そつと、富岡の下腹にゆき子は手を触れてみた。

「明日になつたら、右と左に別れて、また、こんなところで逢つて、あなたは酔つて眠つてしまふンでせう‥‥。遠いところから戻つて来ても、あなたは少しも何とも思つちやゐないンだわ。私が、はるばる戻つてくるなンて奇蹟ぢやないの。色んな事心配して、ダラットの時のやうに可愛がつてくれなくちや厭! ねえ、起きてよ。眠つてしまふなンてひどいわ。眠るなンて厭よッ!」
 ゆき子は富岡の肌をきゆつとつねつた。

 富岡はうとうとしてゐたが、つねられて酔眼を開いた。不思議なところにゐる気がして、四囲を眺めた。だが、睡魔はおそつて来る。また落ちくぼんだ眼を深く閉ぢ、「うるさいねえ、もう、君も疲れてるから、少し眠るといゝよ。何時までも、昔の事なんか考へたつて仕方がないよ」と言つた。

「まア! 随分薄情な人だわ。昔の事があなたと私には重大なンだわ。それをなくしたら、あなたも私も何処にもないぢやないンですか? まだ若いくせに、年寄りみたいになつて、栄養不良で、元気がなくて、疲れてるつて厭だわ。日本は自由になつたつて言ふンぢやないの? 隣りの部屋では、あんなに、甘つたれてゐるぢやないのよ‥‥。起きて、そんなお爺さんみたいな疲れかたしないでよ。――起きないのなら、私は明日奥さんのところへ話しに行つてよ。いゝ?」
2012年02日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120903

十五

 富岡と別れて、ゆき子が鷺の宮の伊場の家へ戻つて来たのは、翌日の昼過ぎであつた。
 判然りした約束を取り交はしたわけではなかつたが、二人が、一緒になるにしても、一応、時をかけなければ、うまくはゆかないと言ひきかされて、ゆき子は仕方がないと思つた。
 近いうちに、兎に角、ゆき子の落ちつき場所をみつけてくれると言う事と、さつそく、まとまつた金も作らうと富岡が言つた。男の一時のがれのやうな気がしないでもなかつたが、かうした出逢ひのなかでは、富岡の言葉を信用しないわけにはゆかない。
 池袋の駅で富岡に別れたが、富岡はすぐ雑沓の中へまぎれ込んで行つた。ゆき子は心細い気がして、暫くホームの柱に凭れて、電車から吐き出される人や、乗り込む人の波をみつめてゐた。長い間の戦争に扱使(*ルビ=こきつか)はれてゐた、栄養のない顔が、犇きあつて、ゆき子の周囲を流れてゐる。

 ゆき子は目的(*ルビ=あて)もなかつた。
 鷺の宮へ戻つたところで、別に、誰もゆき子を待つてくれる人もない。静岡へこのまゝ戻つてみようかとも考へたが、東京を去るには、やはり富岡に強く心が残つてゐる。その執着は、初めて富岡に逢つてみて、形の違ふものになつて来てゐたが、ゆき子は、一応、富岡に逢えた事は嬉しかつた。それにしても、ゆき子も亦、このまゝでは、富岡の重荷になるだけだと、心の中にひそかに承知してゐるところもあるのだ。まづ、この群集の生活のなかに、自分も這入つて行つて、働く道を求めなければならないのだと思ひ、ふつと、品川の駅で見たダンスホールを思ひ出してゐた。何と言う事もなく、ダンサアになつてみようかと思つた。
 華やかな音楽の流れのなかに、化粧をした変つた自分の姿を置いてみるのだけれども、現在の自分の姿からは、さうした職業は実感としては不可能のやうな気がした。

 富岡から、ほんのわづかな小遣ひを貰つてゐたので、ゆき子は新宿へ出てみた。何年ぶりかで見る新宿は、相変らずの雑沓だつた。知つた顔は一人もないのが、ゆき子には他郷を歩いてゐるやうな気がした。新型の自動車が走り、しはしはした寒い歩道を、群集は着ぶくれして歩いてゐる。硝子のない巨きな建物の前へ来ると、あゝこゝが三越だつたのだと、ゆき子は高いビルを見上げた。ビルにそつて右へ曲ると、いくつもの小路のなかに、地べたに店を拡げてゐる露天市が、ぎつしりと並んでゐた。鰯を石油缶から掴み出して売つてゐる。小さい硝子箱には飴もある。ピラミッドのやうに積み上げた蜜柑を売る店、ゴム靴屋、一ぱい五円の冷凍烏賊を並べてゐる店、どんな路地の中にも、さうした露天市が路上にあふれてゐた。荒涼とした焼跡の瓦礫には、汚ない子供達がかたまつて煙草を吸つてゐた。
2012年03日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120904

 ゆき子は、一山二拾圓の蜜柑を買つて、瓦礫の山へ登り、そこへ腰をかけて、蜜柑をむいて食べた。旧弊で煩瑣なものは、みんなぶちこはされて、一種の革命のあとのやうな、爽涼な気がゆき子の孤独を慰めてくれた。何処よりも居心地のよさを感じて、酸つぱい蜜柑の袋をそこいらへ吐き散らした。
 かうした形の革命は、容赦なく人の心を改革するものなのか、流れのやうに歩いてゐる群衆の顔が、ゆき子にはみんな肉親のやうになつかしかつた。
 いまごろは、富岡はあの家へ戻つて、細君に、一夜の外泊をどんな風に言いわけしてゐるのかとをかしかつた。富岡の事だから、何気なくふるまつてゐるに違ひない。家族のものは、富岡に対して、不安を持たないだらう。ゆき子はさうした事が妬ましく考へられた。内地へ戻つて来たら、その日にも、富岡が迎へに出てゐて、二人で新居にうつれるものと空想してゐた甘さが、ゆき子には口惜しかつた。
 昼過ぎになつて、ゆき子は鷺の宮へ戻つた。二つばかり残つた蜜柑を、子供達へくれて、伊庭の荷物のある部屋へ這入つたが、人気のない部屋は寒くて淋しかつた。
 ふつと思ひついたやうに、ゆき子は伊庭の荷物を眺め、何かめぼしいものを探して売つてしまひたい気がした。さうした事が、伊庭へ対するふくしゆうのやうな気がした。めぼしいものを売つて、当分の生活費にして暮しても悪くはないやうな気がした。荷物をほどくにしても、自分の預けてあるものを探すのだと言えば、此の家の人達は怪しまないだらう。また、たとへ、伊庭が来て、荷物がなくなつてゐるのを知つても、ゆき子のやつた事ならば、とがめるわけにもゆくまいと思へた。
 夕方になつて、ゆき子は此の家の人からさつま芋を分けて貰つて、一緒にふかして貰つた。
 芋を食べながら、猫間障子の硝子越しに狭い庭を見てゐると、汚れた躑躅(*ルビ=つゝじ)の植込みに、小さい痩せた三毛猫がじいつと何かをうかがつてゐた。春さき、牡丹色の花が咲いた躑躅を思ひ出して、昔のことが、まるで昨日のやうに思へた。猫は暫くしてから、のそのそとものうげに垣根のそばの、枇杷の木の下をくゞつて外へ出て行つた。
 ゆき子は障子を開けて、廊下へ出て行き、猫を呼んでみたが、仔猫は戻つては来なかつた。
2012年04日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120905

十六

 富岡は、二三日はゆき子の事を考へてゐたが、ゆき子を落ちつかせるべき家の事も、金をつくることも何時か忘れるともなく忘れて、このまゝで、ゆき子との交渉は途切れてしまひたい気持ちでゐた。窒息しさうな程、ゆき子との邂逅は息苦しく、ゆき子がこのまゝ自由に自分の方向へ進んで行つてくれる事を祈つた。
 富岡は、このごろ材木商の知人と共同で、山へ木材の買ひ出しにかかつてゐた。近々、北信州の田舎に出掛けて、杉材の仕入れにかゝりたかつたのだが、知人の資金関係が仲々うまくゆかなかつたし、木材の流筏が、山からの荷出しには、相当の困難だつたので、毎日のびのびになつてゐた。それさへうまくゆけば、多少の金も手にはいつたし、闇の材木は飛ぶように高値で売れてゆく時勢だつたので、少々の冒険はやつてみたい気持ちでいつぱいだつた。日本へ戻つて来て、富岡は、つくづく官吏生活には厭気がさしてゐたので、この機会をとらへて、自分の人生を変へてみたいとも考へてゐた。
 今日も、知人の材木商の田所に、電話してみたが、資金があと、四五日は日数がかゝると聞いて、がつかりして戻つて来た。帰るなり、妻の邦子が、女のひとが尋ねて来ましたと報告した。明日、池袋のほてい(*3字傍点)商会まで、お出で願いたいと、言ひおいて戻つたと聞いて、ゆき子だなと思つた。
 ほてい商会と言うのは、池袋で泊つたホテイ・ホテルの事だつた。富岡は一寸厭な気がして浮かない顔つきだつた。邦子は、何も知らない様子で、
「あの女のひと、私のことを、奥様でいらつしやいますかつて聞きますのよ。何ですの? 田所さんのところに何か御関係のある方ですか?」と、聞いた。
「いや、田所とは別に何の関係もない。此の頃、やつぱり事業の方で知りあつたホテイ商会の細君ぢやないのかね‥‥」
「さうですか、それにしても、あまり感じのいゝ女の方ぢやございませんのね。終戦以来、色々な人が出来たのですね。何だか、好意の持てない、私の厭な型の女の人でしたわ。――何処へいらしたンだらうとか、何時頃、お帰りでせうとか、無作法な程、とても馴々しいンですのよ」
 女の直感と言ふものは、すぐ反射しあふものがあるに違ひないと、富岡は心中ひそかに恐れをなした。
 邦子はゆき子に対して、直感で、一種の膚触りが感じられたのだらう。富岡は、辛い気がした。いまのうちに、ゆき子の事を告白してしまつておいた方がいゝのではないかとも考へられたが、モンペの膝に、縫物をひろげて、冬の蒲団の手入れをしてゐる妻に対して、外地での色恋沙汰を報告するには、あまりにも気の毒な気がした。罪もない邦子にさうした告白をして、深い傷口をつくる事は、富岡にはたうてい忍びないのである。邦子は、富岡の両親のもとで、とぼしい生活によく耐へて、良人を待つてゐたのだ。
2012年05日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120906

 翌日、昼過ぎ、富岡は、ホテイ・ホテルに出向いて行つた。ゆき子は待つてゐた。海老茶色の外套を着て、髪を思ひきり額にさげた、見違へるやうに派手なかつかうをして、火鉢に凭れてゐた。
「昨日、うかゞつたのよ‥‥」
「うん‥‥」
「奥さまつて、とても、おとなしさうな方ね」
「君、馬鹿に、お洒落になつたンだね」
「えゝ、此の外套買つたンだけど似合つて?」
「どうしたンだ」
「私、親類のものを黙つて売つちまつて、これ買つたのよ。あまり寒かつたし、淋しくて仕様がなかつたから‥‥」
「そんな事していゝのかい?」
「よくはないけど、仕方がないわ」
 富岡はまじまじと、派手なゆき子の姿を眺めてゐた。懈(*ルビ=だる)いやうな、ものうい姿でゐるゆき子の変化が、そゞろに哀れで、富岡は、昔歌舞伎で観た、朝顔日記の大井川だつたか、棒杭に抱きついて、嘆いてゐた深雪(*ルビ=みゆき)の狂乱が、瞼に浮んだ。自分が、こゝで此の女を突き放してしまへば、そのまゝ廃頽の淵に落ち込むのが見えてゐるのだ。棄て鉢にさせたら、どんな事になるかと、富岡はさうした不安もあつた。
「何を考へていらつしやるの?」
「別に、考へてもゐないが、これから、二人とも大変だね‥‥」
「さうね、纏りやうがないつて思つてるンでせう? 悉皆(*ルビ=すつかり)、私はあきらめてもゐるのよ。奥さんを見たら、とても悲しくなつて、歩きながら、思ひ詰めちやつたわ。旦那さまに安心してゐる奥さまつて、清潔で綺麗ね。善いひとを不幸にするのは怖いわ‥‥」

 富岡は本気でそんな事を言つてゐるのかと、じいつとゆき子をみつめた。家の前を彷徨(*ルビ=うろつ)いてゐたのだらうゆき子の姿が眼に浮んで来る。ゆき子はハンカチを外套のポケットから出して眼を拭いた。思ひがけなく、そのハンカチは、富岡がダラットで使つてゐたものであつた。
「貴方は、私なンか捨てゝしまひたいのね? さうだと思ふわ。もう、私の事なンかどうでもよくなつてゐるのよ。私つてものが、貴方には苦痛になつてるのね。私は、貴方に見放されたら地獄へ落ちて行つてしまふのよ。灰になつて吹き飛んでしまふきりなのよ。貴方の影だけを見てゝは生きてはゆけないぢやありませんか。奥さんを愛していらつしやる、そのおあまりを、乞食みたいに貰ふ愛情なンで厭だわ‥‥」
「何言つてるンだ。馬鹿だね。愛情なンか、いまごろ持ち出すなンて変だぜ。それどころぢやなく、俺だつて、色々と考へてゐるンだ。何とか、方法を考へてゆかない事には、君だつて困ると思ふから、かうして、今日も忙しいのにやつて来てゐるンだ」
「厭! そんなに恩を被せないで‥‥。私の言つてる気持ちが、貴方にはよく判つて貰へないンだわ。私は、どうして、我まゝいつぱいに貴方に甘へてゆけないの? 貴方は、いまでも他の事を考へてゐるンぢやありませんか。――でもね、無理な事は言ひませんから、何とか私の住むところをみつけて、時々逢つて下さい‥‥。私、すぐにでも働きたいのよ。私は、貴方の本当の奥さんにはなれないやうに生れついてゐるンだわね」
2012年06日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

Kindle新製品キターーーーーーー!!!!

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1209/07/news031.html

すごい、このイッキ感。
Fireも関心はあるのですが、当分のところ、ワタクシ個人はiPadで問題ない。
iPadMiniが出るのならそちらを買う。

なぜか? やっぱり日本で見て買えるiPadの方がありがたいから。不満もないし。

で、個人的な注目はKindleの方。すごいやこりゃ。
フロントライト搭載で、より高精細・高コントラスト化。進歩だねえ。

これもTouchパネルにしちゃったのが不満である。サイドボタンの方が絶対ラクだし、反応性もいいと思うのだ。

とはいえ、こちらは買っちゃいそう。Kindle3の音声機能で遊んでいたので、その部分がどうなってるか見ないとだけど。

いまはネガティブな声がまだまだ多い電子書籍タブレット(と流通網)業界だが、あと20年! 私らの子供の世代には当たり前になっているはずだ。

===
20120908追記:
その後、公式を調べてみたがText-to-Speechは新型キンドルにはないですな。
ということでKindle3がやはり最強でしょう。これのディスプレイがPaperwhiteになって、タッチパネルかボタンかを設定で選べたら、それが現時点での最高機種になりそうですが。
2012年07日 NEWSなヘンテコ こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120907

 富岡は冷い茶をすゝり乍ら、寒いので、膝を貧乏ゆすりして、ゆき子のヒステリックな口説を聞いてゐた。ゆき子は三日も放つておかれた淋しさで、富岡の顔を見るなり、あれもこれも喋舌りたかつた。
「部屋は探して下すつてるンですの?」
「探してゐるさ。部屋一つ位と思ふだらうが、こんなに焼けたンだもの、仲々みつかるもンぢやない。たとへみつかつても、何万円と権利金が要るンだ。もう、一寸待つてくれよ‥‥」
「そりやァ、貴方は一軒の家に住んでいらつしやるから、何となく落ちついていらつしやるけど、私は宿無しなのよ。現在泊まつてゐる処は、私の住める義理合のない家にゐるンですもの。‥‥早く、私だけの居場所が欲しいのよ。親類が疎開しちやつて、その後を知らない人達が住んでる、その家へ、ほんの数日と言う事で借りてるンですもの、辛くて仕方がないわ‥‥」
「いまに、何か見つけてやるよ。俺だつてぐづぐづしてゐるわけぢやないンだ。家と言うものは、此の時勢ぢやア仲々ないものなンだ。ところで、此の宿ぢや、火はくれないのかね? 馬鹿に寒いな‥‥」
「さうね、また、此の間みたいに、私、宿で壜を借りて、カストリ買つて来ませうか?」
 ゆき子は気が変つたのか、手提げを引き寄せてもそもそと袋のなかを探し始めた。やつと財布を探し出すと、気軽るに立ちあがつた。
「おい、少しでいゝよ。澤山は飲みたくないな‥‥」
「今日は早く帰るの?」
「別に早く帰らなくてもいゝ‥‥」
「泊つてかないの? 私、お金あるわよ」
「今日は泊れないね」
「さう、つまらない。どうして? 此の間、叱られたンですか?」
「子供ぢやあるまいし、誰も叱りやアしないよ。今日は駄目だ‥‥」
 ゆき子は無理に強制するでもなく、そのまゝ部屋を出て行つた。此の間の部屋とは違つてゐたが、部屋のなかゞ馬鹿に寒く、目の粗い畳の汚れてゐるのも陰気だつた。
 富岡は煙草を出して一服つけながら、邦子が、ゆき子の事を、最も厭な女だと言つたのを思ひ出してゐた。
 かうした荒れた旅館の一室で、秘密な女と逢つてゐる事よりも、家の茶の間で、しゆんしゆんと湯のたぎる音をきいて、邦子のそばで新聞に眼をとほしてゐる時の方が愉しいと思へた。何と言う事もなく、何故、ゆき子は沸印で死んでくれなかつたのだらうと、怖ろしい事も考へるのだつた。すべて人間の心のなかには、どんな時にも、二つの祈願が同時に存在してゐて、一つはサタンに向ふと言う心理があるものだと、富岡は何かで読んだ記憶があつた。
2012年07日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-

『浮雲』20120908

 富岡は、煙草の煙を眼で追ひながら、ふつと、ゆき子のふくらんだ手提げに眼がとまつた。手をのばしてそれを引きよせてみた。フエルトで出来た汚れた手提げのなかには、紫の風呂敷に包んだ反物のやうな固いものがはいつてゐた。その他には化粧品だとか、富岡がサイゴンで買つた、ブルーダイヤのマークのはいつたパアカーの萬年筆や、ピースの煙草や、手拭や石けんがごたごたとはいつてゐた。静岡の肉親にあてた手紙も二通ほどあつた。富岡は、やがて、また、もとどほりにその手提げを戻して、煙草を火鉢の固い灰に突き差したが、自分の心のなゝからはみ出しさうになつてゐるゆき子に対して、何となく済まない気がして来た。善き半身である処の邦子のおだやかな容子を考へて、その妻を犠牲にしながら、自分だけはこんなところに彷徨してゆき子に搦まり、現在の生活の淋しさを、ゆき子によつて遁れようと、秘密な誘惑に頼らうとしてゐる自分の身勝手さが、背筋に冷い汗のやうに走つた。
 富岡は人妻だつた邦子をさらつて、自分の妻とした当時の事を思ひ出してゐた。悪い事を重ねては、新しい罪をまた重ねてゆく自分の勝手な心の移りかたが、いまでは宿命のやうにさへ感じられた。ダラットに残して来た女中のニウは、富岡の子供をみごもつて田舎へ戻つて行つた。まとまつた金を与へたゞけで、一切済んで気でゐた気持ちが、妙に痛んで、時々、ニウの夢を見る時があつた。もう、ニウはすでに赤ん坊を産んだに違ひないのだ。混血児を生んで、肩身の狭い思ひをしてゐるだらうと、富岡はなつかしい沸印での生活を思ひ浮べてゐた。
 暫くして、ゆき子が冷い風に吹かれたのか、赤い顔をして戻つて来た。
「ねえ、またお壽司買つて来ちやつた。お酒も、ほら、壜にいつぱい分けて貰つたのよ」
 ゆき子はビール壜を窓に透かすやうにして、富岡へ見せた。ゆき子は、冷い残りの茶を、乱暴にも、火鉢の隅へあけて、それへ酒をついだ。
「私が、初めに、お毒見よ」と、茶碗に唇をつけて、半分ほどぐつと、飲んだ。
「あゝ、おいしい。胸も、おなかも焼けつくやうだわ」
 富岡は酌をされて、これも息もつかずに、一息に酒を飲んでしまつた。ゆき子はまた茶碗へ酒をついだ。
2012年08日 林芙美子『浮雲』 こめんと0 とらっくばっく-
  

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40年の時を超えて…復刊!

ヴィマーニカ・シャーストラ [日本語訳]

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